月かげ134号

生きて身を はちすの上に 

 宿さずば 念仏申す

   甲斐やなからん

 

          西山上人

 

 立春とはいえ、まだまだ寒い日が続いておりますが、梅の蕾がふくらみ始め、春は確実にそこまで来ています。

 今朝、イスラム国に拉致されていた後藤健二さんが殺されたと報道されました。イスラム過激派のテロも、中東世界の遠い国の出来事では片付けられない身近なこととなりました。

 インドの昔話にこんな話があります。全ての存在が神の現(あらわ)れだと聖者から聞いた少年が、象使いの「逃げろ」という言葉に耳を貸さず、暴れ象に向かって挨拶したところ、鼻でつかまれ投げ捨てられました。憐(あわ)れな少年は気絶し、傷だらけで地に横たわりました。少年は「全ての生き物が神の現れだと聖者がおっしゃったから、私は象神を見て動こうとしなかったのです」と。これを聞いて聖者は言いました。「我が息子よ、来たのは象神であることは本当だ。しかし、象使いが、お前に逃げよと警告をしなかったか。神が一切のものの中に現れていらっしゃることは事実だ。しかし、もし神が象として現れておいでなら、それと同様に、いや、もっとはっきりと、象使いの中にも現われていらっしゃるのだ。なぜお前は、象使い神の警告の声に耳を貸さなかったのか」と。

 お釈迦さまは、「正(しょう)見(けん)」という教えを説かれています。物事は、一面からだけ見ていては正しくは見えない。あらゆる角度から眺めたとき、もっとも正しい姿が見えると・・・。

 全ての宗教や思想には、それを信奉(しんぽう)する人たちから見れば、正しい一面があると思います。しかし、あらゆる角度から眺めたとき、それが本当に正しいかどうか、はっきりすると思います。

 私たちは、お念仏にご縁を頂きました。全ての人々が平等に救われ、一切の争いを超えた万機普益(ばんきふやく)のみ教えに出合えた幸いをよろこびつつ、世界に真の平和が訪れることを、心より願いたいと思います。

                南無阿弥陀仏  合掌