月かげ第199号

 皆さん信仰(しんこう)持ちなされ

 信仰なしには生きられぬ

 心に深く弥陀仏(みだぶつ)の

 慈悲(じひ)のひかりを持ちなされ

                  関本諦承(せきもとたいじょう)上人

 

七月になりました。

作家、村上春樹さんが『猫を棄てる』という本を出版されました。村上春樹さんのお父さんは西山浄土宗のお寺の生まれなので、村上さんの新作が出ると楽しみに読んでいます。今回はお父さんのことを詳しく書かれた本なので、さっそく読みました。

大正生まれのお父さんが、多くの戦死された友人や中国兵の方の菩提(ぼだい)を弔(とむら)い、全ての戦死者のために毎朝おつとめされていたこと等、書かれていました。だけど、村上さんは、戦争に行って来たお父さんの若かりし頃の話は詳しく聞いていない、とも書いていて、そうであっただろうという風に、お父さんが三回も召集(しょうしゅう)されたこと、そしてその帰属(きぞく)部隊のことが書かれていました。

多分、そんな風に両親が戦争に行ったことは知っていても、戦争の話を詳しく聞いていない子供が多いのではないでしょうか。私も母から大阪の空襲(くうしゅう)で、家が燃えて、中に大事な物を取りに行こうとしたら「いったらあかん」と叱(しか)られて、怖い火の海を逃げた、という話を聞いていますが、詳しく聞いたことはありません。

私の母の兄も若くして戦死しました。

村上さんのお父さんの千明さんは私の父と同じ時代に西山専門学校に通っておられたので、父もよく存じていると話していました。先住の神野(こうの)志(し)方丈さんも多分、同じ時代に西山専門学校に通っていたと思います。

あの時代、若者の多くは命を奪(うば)われ、母や妻は悲しみ、日本中、世界中、悲しみと憎しみが渦巻(うずま)いていたのだろうと思います。村上春樹さんの作品に流れる「反戦と平和」は、私たちの世代が次の世代に継承(けいしょう)しなければいけない、幸せに生きる方法だと思います。

村上さんのお父さんが毎朝、必ずおつとめをされていたこと、それはお父さん自身の心の支えでもあったと思います。

弟さんをご病気で亡くされた、大佛師・松本明慶先生が以前、

「だから仏壇(ぶつだん)も、お寺も、必要なんや。」

そうおっしゃっていたお言葉が今も私の脳裏(のうり)に残っています・・・。

 

                    南無阿弥陀仏 ⓢ